<ある夏の日の出来事その3>

<ある夏の日の出来事その3>
(一人暮しをはじめる、はじめの一歩)

3ヶ月もたったある日、
ホレッ! これ良く見てみろ
と、言わんばかり。

部屋の真ん中に貼り出された
1枚の修了証書と募集広告のチラシ。

<アルバイト募集>

ツボ押しマッサージ(研修あり)

時間帯:深夜1: 00 ~明け方

時 給:0000円

「六本木△△△ハウス」

“ツボ押し”
エッ!どこ押すの?

“ツボ押し”
耳慣れないことば。

まさか風俗では・・・???

「お願い! やめて!」と
すがってみた。

泣いてもみた。

「ヤメロ!」と
怒ってもみた。

「知りもしないくせに、
ツボ押しが、なぜ悪い!!」

一言叫ぶや否や、
やにわに物が飛んできた。

「ひとが必死な思いで
せっかくとった資格なのに!!」

ついに、怒り心頭に達したか・・・。

矢継ぎ早にわめき散らし、
手当たり次第に手にとっては、
ありとあらゆる物を
投げつけて来た。

除けようとしたその拍子、
横倒し。

よし!こうなったら
残された手段は、
死んだふり。

冷ややかにのぞき込み、
あざ笑うかのように
鼻先で
「フン!」

度重なる手術。
その度に全身麻酔を目の当りにしただけに、
こけおどしと、言わんばかり。

和歌 「また死んでらあ~」
私 「・・・・・・」
和歌 「なぁ~んだ。本当は死んでいたんジャン!」
私 「・・・・・・」
和歌 「今も、死んでるジャン!」
私 「・・・・・・」
和歌 「いつだって、死んでるジャン!」

ジャ ジャ ジャーン!
・ ・ ・ ・ ・

手術の度毎に、
ジャンジャン耐性は、つく一方。

全く効き目無し。

それもそのはず、

早産、出血多量と
様々なうき目に会いながらも、
数々の難関を突破。

大地に産れ落ちた
ゴジラの玉子。

カラが裂けた!
飛び出して来たのは、
分別の無い
ゴジラの赤ちゃん。

怒ると恐い。
ハンパじゃない!

おまけに幼少期から、
待つ・見守る・邪魔をしない
をモットーに、
個を尊重。

自然の中で、自由奔放。
ただひたすら遊び込んで
培った筋力。

ある日突然、
その筋力を武器に
適正発見!
『ツボ押しマッサージ』
資格取得に
チャレンジ!

炎天下、猛暑の中、
走る・泳ぐ・潜る
海辺の猛特訓。

死にもせず、倒れもせず
”見事”
資格取得。

私には、何一つ出来ないこと。
反対できる理由(わけ)がない。

さて、
“六本木△△△ハウス”
どんな所かな・・・?
まずはこの目で見てみよう―。

それからだ・・・・・・

即電話でコンタクト。
一枚のチラシを手に、
一本木の私は
早速六本木。
現地に直行。

店いっぱいに漂う
漢方薬の香り。
静かに流れるB G M。
早くもリラックス。

店長 「江崎さんですね。」
私 「安心して、仕事をさせるために来ました。」
店長 「こちらこそ、かえって安心しました。」

安堵感も束の間、
ハタと気付くと
サイフが無い!

サイフを落として良かった。
早速最寄りの交番へ。
ついでに店の風紀を尋ね、
更に安心。

サイフもあって良かった。
何か得した気分。

和歌は、
とっても良い子で悪い子だ!!

一件落着。

こうして、
昼は音楽、感性をみがき、
夜はツボ押しの腕をみがく。

二足のワラジを
器用にはきこなし、
寝る間も惜しんで稼ぎはじめた。

主人 「こんなこと出来るのは、
和歌しかないよ!」と、
あきらめるどころか、
あきれかえった頃。

しかも人が寝に就く頃、
「ヤア!みなさん、
おはよう!」

鼻歌まじりに
♪ おてんとさんが のぼれば
社長さんは かえる
あら! ルンルン! あら! ルンルン

いい香りをのせ、
いい汗かいて、
いい汗流し、
ルンルン気分でご帰宅。

それもそのはず、
バイトが終れば、
狸御殿のお姫さま。

帰宅前のフルコース。
最後の総仕上げ。

まずは、サウナ室の掃除。
白衣を脱いで、
ついにシッポを出したお姫さま。

備え付けの高級な化粧品。
カラビンを手にとると、
一滴たりともムダにすまいと、
頭の先からシッポの先まで
全身ぬりたくって、
狸の泥化粧。

ゆったりと湯に浸り、
狸の泥風呂。

静まり返ったサウナ室。
一人ひそかにほくそえんでは、
ウフフフフ・・・
とらぬ狸の皮算用。

稼げて、
美しくなれて、
おまけにシェイプアップ。
ウフフフフ・・・。

シャワーを浴び、
泥を落とせば、

ハイ!
もと通りの
シンガーソングライター
江崎和歌。

帰宅を前に、
音楽やるためにスタンバイ。

仮設ベッドで仮眠をとって、
しばし狸寝入り。

願ったり叶ったり。
その名も節約日和。

ここにあっても、またしも
合理的な和歌だった。

(ある夏の日の出来事 完)