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エッセイ

バンタン芸術学院卒業式の巻

学校という名のつく
和歌人生最後の卒業式

これまでとはうって変わって
評価は実技

赤点もなければ留年もない

自分のやりたいことを思いっきりヤレ!
歌を歌いたい子は
朝から晩まで歌を歌い
ギターを弾きたい子は
朝から晩までギター、ギター
好きなことやれた2年間

師に感謝
音楽は恩学だった

式場はなかの ZEROホール
これからは学費もかからず
自分の足で稼ぎ出す
まさに0(ゼロ)からのスタート

ケチの権化の母は
なんともめでたいことだと
めずらしく
「晴れ着を用意しましょうね!
着物とドレス、どっちがいい?」

嬉しげに目を細め
「あなたの人生最後の卒業式ですもの」
まことしやかに反物を差し出すと
「これどう?
きれいな花柄でしょう・・・」
「エッ!まさか!」
半信半疑で広げてみれば
大きな大きなただの風呂敷
「どうやって着るんだよ!」
と言えば
浴衣一枚縫ったことないくせに
「私が仕立ててやるよ!」と
大言壮語の大風呂敷

待てど暮らせど
風呂敷は風呂敷のまま

卒業式も間近にせまり
「着物はどうなったの?」と聞けば

待ってましたとばかりに
パッと広げ
ヒラヒラとなびかせると
フワリと体に巻きつけ
「インドのフォーマル サリー!」

「これでどう?」
やっぱりドレスにしよう」と
「バッカみたい!」丸ででたらめ

それにひきかえ母は
卒業式1ヶ月も前から
入学式、あの日の感動を今一度
素敵な師の見納め、目の保養
タンスの肥やしを引張り出し
鏡を前に
「ねえ あなた、これどうかしら?
これではどう?」
主人「首から上がなきゃあ素敵だよ!」

〔卒業式当日〕
式は10 : 00
和歌は9 : 30になっても起きず
私 「卒業式ではないの?」
和歌「オットー、ヤバイ!」

やおら起き上がると
なんと
寝巻の上から赤いコートを羽織ると
和歌「全くめんどうくせえなあ~!
「電車賃頂戴!」
私 「中野までいくら?」
和歌「160円」
きっちり160円渡すと
和歌「このケチ!」
160円にぎりしめると
ドアをけって飛び出した

卒業式は、晴れ着どころか
起き抜けの赤いコートの赤ぞう巾

2年間、無遅刻、無欠席
赤ぞう巾は
遅刻してはならずと
駅に向って大道りぞいをまっしぐら

それを追ってタクシーに乗り込んだ母
赤ぞう巾 尻目に
窓ガラス越しに
「乗せてやるもんかね、
バイバイ!」
キッとにらみ返した赤ぞう巾

危うくセーフ!
0 ( ゼロ ) ホールに滑り込んだ

 

会場はこの日ばかりはと
思い思いに趣向を凝らし
着物やドレス
湖面に映し出された
白鳥さながら
鏡の前に立ち
身づくろい

そんな光景を
群れからはずれ、じっと見つめる
たった一羽のみにくいアヒルの子
赤ぞう巾は
「色の白いのは七難かくすとは
よくもまあ 言ったもんだ」

おまけに場内は薄暗がり
この晴れの日に
寝巻きとは・・・
ましては寝起きのままとは・・・
誰もが予想だにしないだろう

おもむろに
辺りを一通り見廻すと
私は私

いかにも自信ありげに
腕組みすると
堂々と着席

がしかし
知る人ぞのみ知る

会場は暖房がきき過ぎるほど
赤いコートの下は、しかも寝巻き
さぞかし暑かろうに
赤ぞう巾は
絶対コートを脱ごうとしなかった

晴れ着姿の女子生徒の感謝の辞

涙、涙で声にならず
振り袖をひきちぎって
涙をふかんばかり

思い出が涙となって
こぼれ落ちるばかり
胸がいっぱいで何にも言えない

シンと静まり返った場内

薄暗がりの会場の片隅で
チンチン鼻をかんでる変なオバサン
目を凝らせば
なんと正装した我母

ウザイ!ダサイ!とばかりに
時折振返ってはチラリチラリと
殺意に満ちた視線を投げつけ

終始冷めた表情

“卒業”
このウララかな日に
何で泣かなきゃならないの!

良くもまあ あんなにパラパラと
涙が出てくることよ!

今日こそ
競争社会 旅立ちの日
泣いてる場合じゃない!

ましては晴れ着なんか
着てる場合じゃない!

ライブ活動はこれからだ!
会場は涙・涙・涙・・・
もう胸がいっぱいでなんにも言えない
女子生徒がやっと言えた最後の一言
「先生方、お世話になりました」と

もしこれが和歌ならば
「先生方、お世話をおかけしました」

水泳部活で鍛えたイカリ肩
不慣れな和服
「江崎和歌でーす
がんばりまーす」
裾をけりけり
堂々退場

生徒が生徒なら
師もまたしかり
突如壇上に踊り出て
何をかいわんや
祝辞とはほどとおく
「これ、君達の入学式の時に着たスーツと
同じスーツだよ!」
一張羅のスーツと言わんばかり

2年間育んだ個
生徒旅立ち
別れの日
スーツなんか新調してる場合じゃなし
祝ってる場合じゃない!

日頃、ラフスタイル

思いがけずフィットした師のスーツ姿に
女子生徒達はヒャ― ヒャ―

 

善良にして正直
生徒達にとっては友であり仲間であり
きさくな師方々だった

男子生徒の辞が物語る
「俺らと薄紙一枚の
距離だった」

学院長が生徒に手向ける
最後の辞は
「また遊びに来て下さい・・・・」の
優しい一言

個を引き出そうとすれば
自ずと厳しくなる

この一言で
学院側の姿勢が代表された

卒業式も終了・・・
なんと若く・・・
なんとハンサム・・・
なんて素敵な師方々

母はまるで女子生徒さながら
青春時代へタイムスリップ
なんと若く・・・・・
なんとハンサム・・・・・
なんて素敵な師方々・・・・・

余韻も冷めやらぬ内
「只今」と帰り、着替えはじめれば
やにわに部屋から身を乗り出し
夫「おい!お前!卒業式はどうだったい?」
私「今朝、あなたは
『首から上がなけりゃ
晴れ着は素敵だよ!』
と言ったけど
あなたこそ!
いきなり首から上を
出さないで!」

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