<バンタン卒業式祝いの膳の巻>

<バンタン卒業式祝いの膳の巻>
卒業式も終了・・・・・

和歌、卒業式の晴れ着は
前代未聞、寝巻き。
ちょっとシャレた言い方をしても
パジャマだった。

在学中はインパクト。
卒業するときはもっとインパクト。
和歌インパクトには、
終わりがなかった —– が。

子が子なら
親も親。
負けず劣らず、もっとインパクトだった。

帰宅してみれば
母手作りの卒業祝いの膳。

卒業式の
手書きのシンプルなプログラムの中に
生徒を送り出すに当たって
沢山の心と言葉があったが、—–

豪華なお品書きにしては
シンプルすぎる程の膳

祝いの膳

<お品書き>
テーブルの上には・・・
・ワイン ・水
・前菜 ・白菜の漬け物
・フカヒレスープ ・コンソメスープ
・サーロインステーキ ・チキンソテー
・にぎり寿司 ・おにぎり
・ハーブティー ・緑茶
・プリンアラモード ・「あらどーもねぇ」とデザートはナシ

音楽で生きるって
ハンパじゃない!

母の心粋がに伝わってきた。

これまでに
筋目筋目ごとの祝いごと
その度ごとに
これでもかこれでもかと
母はケチを押し通した。

ハッピー・バースデー

忘れもしない
3才の誕生日プレゼント

箱の中から出てきたのは、
赤いリボンを付けた
黒い子ネコちゃん!
ただの捨て猫だった。

メリークリスマス

部屋に流れる聖夜

テーブルの上に並んだごちそう
ローソクの灯に照らし出された
ローストチキン。

目を凝らせば
切り絵のチキン、ただの紙。

母は一言呟いた「きよしこの夜。
クリスマス位は
殺生するもんじゃありません!」

お金をかけない
一品料理。
音楽こそグルメだった。

お正月

新年明けましておめでとう。

待ちに待ったお年玉。
開けてみれば
木の葉、葉っぱが一枚。

兄が「ホレ、ごらん!」
とばかりに開けてみれば
木の葉っぱが2枚。

新春を祝う

開けまして お芽出とう

— 卒業祝いの膳 —
学校と名がつく
和歌人生の
最後の晩餐

これまでの中では、
一番豪華なメニュー
全て本物。

しかもテーブルの脇には
”気持ちです”と白い封筒。
開けてみれば、
「気持ち」と書かれた
ただの紙

母は一言呟いた。
「人生の祝いごとは、
結婚式でも卒業式でもありません。
人生最大のお祭り
自立のための儀式
それは葬式! 」

母の願いは”音楽葬”
それが和歌ライブ。

日毎夜毎
母の傍らを
淡々と流れる
和歌練習曲こそ

別れの瞬間
別れのミサ曲

起きて半畳
寝て一畳。
場所もとらず
チケットもいらず。

こうして
母は子を卒業
子は母を卒業
これが本当の卒業式。

和歌練習中は
三歩退がって師の影を踏まず

歌ってもいけない
口ずさんでもいけない
脇を通りかかってもいけない
ましては、のぞくなんて、とんでもない。

いつしか
母はうたを忘れたカナリヤ
翼を切られた鳥。

遠い昔の子守歌は
母と子の立場を逆転。

ミサ曲に身をゆだね、
いつしか深い眠りへと・・・・・

和歌オリジナル
母の好きな”ふりふりふるる”

眠ったはずなのに、
なぜか決まって母の拍手が
鮮明に聞こえてくる。

— 以心伝心、別れの歓喜 —

なかなか鳴りやまない
響き渡って止まない

歌うほどに、上手くなり
上手くなるほどに眠くなる
「もっともっと歌ってどんどん歌って」
歌えば歌うほど、
どんどん眠くなる。

やがて、母はうっとりと、
そして、ぐったりと・・・・・。
これじゃあ、生きているのか?
死んでいるのか?解らない。

良いことをしているのか、
悪いことをしているのか、解らない。

母がたった1つ望んだ
贅沢が音楽葬。

ケチな母は、
祭壇も要らず
花も要らず
墓も要らず。

せっかく命かけた葬式ですもの、
お金をかけるだなんて
とんでもない!

葬式にかけるものは、気持ちだけ。
あとは棺桶1つあればよい。

その上、誰も頼まないのに
どなたかの役に立ちたい・・・・・と
節約とボランティアを兼ねた
ケチの集大成

母の最後の願いには
献体 ・・・・?

がしかし
憎まれっ子世にはばかる
たび重なる手術
大病しては無事生還
使えるところはごくわずか。

極めつきのケチ!

親が親なら
子も子。

音楽するなら今がチャンス。
お金はあるよりない方が良い。

ギター1本、体1つ
後は水があればよい。

音楽こそグルメ。
ぜい沢な貧乏生活。

シンガー・ソング・ライター貧乏
江崎和歌の1人旅
貧乏暮しがはじまった。

朝から晩まで貧乏貧乏
貧乏神が吹き荒れる
貧乏神が吹きすさぶ

触らぬ神に祟りなし
波風立ててはならずと

遠く静かに見守る師方々・・・・・
それをまた見守るあまたの貧乏神・・・・・・