10泊11日徒歩旅行 小5 上級キャンプ
「和歌とリヤカー」
元気と勇気をリュックに詰め
レッツゴー
2本の足でしっかり立って歩くんだ
炎天下、猛暑の中、どしゃぶりの雨の日も、風の日も
歩く、歩く、ただひたすら歩く
行けども、行けども、同じ景色
いつになったら景色が変わるのだろう
目に入るのは前方を歩く子の
リュックと帽子
なぜ歩くのか、足を止め考える暇もない
聞こえてくるあの歌
―――君の行く道は 果てしなく遠い
だのに なぜ 歯を喰いしばり
君は行くのか そんなにしてまで
運搬の手段は、2本の足と1台のリヤカー
寝るときは、テントか寝袋
野宿だった
荷物を山積みにしたリヤカーを
和歌は先頭を切って
全力でグングン引いた
全身汗だく 拭いても 拭いても
したたり落ちる汗
首に巻いたタオルはぐっしょり
絞れば、ジャー!
暑さで汗がかわけば塩になる
顔がザラザラ
なめればしょっぱい
鉄工夫は
塩をなめなめ鉄を打つ
和歌は顔の塩をなめなめ
リヤカーを引く
オッ! 2本足の見かけぬ馬
すれ違った荷を引く馬車馬が
振り返ったほど
人であることを忘れさせるほど
4本足の馬車馬並みだった
引くほどに加速度は増し
大地をけって突き進む
2本足の競走馬
土ぼこりが舞い上がる
「和歌! 待ってー」に
どうにも止まらない、だった
上り坂はさすがにきつく
苦しければ苦しいほど
満面に笑みすら浮かべ
疲れた仲間を
グイグイと引っ張った
仲間にとっては
心に咲いた
デッカイひまわり
道中の楽しみは2つ
ひんやりとした沢の水と
休憩地点の川遊び
素手で魚をつかむ
水は光り 魚はすべる
青空を枕にごろりと昼寝
充電は、短時間でOK
次の地点を目指し
レッツGO!
回復力抜群
「快食、快眠、快便」だった
日を重ねるほどに
疲労をみせる仲間とは
対照的
和歌は
日を重ねるほどに
元気になった
――快食――
食料隊長 江崎和歌
献立は闇ナベ
薄暗がりで何でもかんでも
ぶち込んでグツグツと
しゃもじですくいあげお椀にもれば
何と、でっかいタワシが1つ
――快眠――
どしゃぶりの日は
テントの中の寝袋で
テントは雨がたまって垂れ下がる
下から持ち上げ水はけ作業
それをしないと
雨の重みでテントは崩れる
和歌は3人並んだ真ん中で
垂れ下がったテントのすき間
2cmの空間でスヤスヤと
両脇の仲間は
「アッ! 和歌が窒息する」と
寝るに寝られず
変わりばんこに水はけ作業を!
ア!和歌が消えた
目的地点に到達しないときは
ヘッドランプの灯りを頼りに
一列に並んで
夜間歩行
闇の中を歩くのは
危険と隣り合わせ
林道の脇はがけっぷち
自分の命は自分が守る
闇の中を 物も言わずに
ただただ ひたすらに歩き通す
突然 睡魔におそわれた
山中八甲田山
「ア! 和歌が寝ながら歩いてる」
ヘッドランプは
歩くたびにゆらゆらと揺れ
まるで催眠術
と、今度は
「ア! 和歌が消えた」
突然のことだった
全員で「エ! まさか!」
まるで神隠し
リーダーは号令をかけ点呼
確かにひとり足りない
江崎和歌がいなかった
全員で もと来た道を引き返そうと
「遠くで誰かの声がする…」
「もしかして和歌じゃない?」
耳を澄ませば
紛れもなく和歌の声
接近するほどに鮮明に
「和歌ちゃんはここよー、ここよー」と聞こえてきた
「良かった、生きていた。しかも元気だ」とリーダー
全員 いっせいに駆け出した
「和歌ちゃんはここだよ!」と
今度は足元でハッキリと聞こえてきた
懐中電灯で照らせば
なんと、マンホールの穴
寝ながら歩いたので
マンホールに落ちちゃった
仲間を見上げニッコリ
深さ2m近くの穴だった
運良くリュックから先に落ち
リュックがクッションとなり
その上に落ちた
リーダーは手を貸し
穴から引き上げた
不思議なことに
ケガひとつしていなかった
普通なら
泣くどころか声も出ず
和歌は
きっと迎えに来てくれるはずだと冷静に対処
「和歌ちゃんはここよー」と
大声を出し続けた
勇気と元気をリュックにつめ
今再びレッツGOだった
私はなぜ穴に落ちたか
キャンプに来たから
家で勉強だけをしていれば
穴には落ちなかった
でも、きっともっと深い落とし穴が…
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