<和歌のライブはお笑いだった>

<和歌のライブはお笑いだった>
<はじめて招待されたライブ>

はじめて招待されたライブは
1ヶ月の闘病生活
退院直後のことだった。

感無量。

音楽を志す
一人前の人間として
一際グンと大きく見えた。

終始ニコヤカに、
「皆さん、こんなに沢山
こんなに遠くまで・・・
ところで、どこからいらっいました?」に、
思わず客席からヤジ!
「あの世から」と、一言。
低音で呟いた。

一瞬静まり返った場内。
これでは丸でお化け屋敷。

会場の片隅に
突如、青白く浮かび上がった母の壁。

予想だにしない、場違いの
母のヤジに、
とまどいを見せた和歌。
ウフフフフ・・・と笑いだし、
台詞にならず。

おかしさを
こらえにこらえ、咳払い。
ついにこらえ切れずに、
ギターを抱いて、そっくり返って
「アッハッハハー」

それにつられ
観客もまた大笑い。

このままでは
ライブどころか
お笑い劇場。

さて自己紹介。
今度こそはノーマルにと、
呼吸を整え、
静かに語り出した。

「私は自然が好き」
ギターの木目をなでながら
「木が好き。
空が好き。
動物が好き。
それにネコが好き。
だって、家ってネコだらけでしょう・・・」

「それにゴミだらけ!」
間髪入れずに、またしも母のヤジ。

予想だにしないヤジの連続
舞台と客席の掛け合い漫才。

笑いはイントロ、
サービスの内。
ヤジをよそに
ギターをつまびき
静かに歌い出した和歌。

いつしか観客は、
ステージに見入り
笑いの渦は消え去った。

どこに在っても自然体
舞台と家の敷居がない。
舞台から下り
そのまま「ただいま」
と帰ってきても、おかしくない。

と、思っていたら、
けたたましく玄関をガラッ!
開くと同時に
和歌 「なんだい、あんなコト言って!
もっとまじめに聞きなさい!
もう二度とあんたは誘わない!」

どうやら、ブラックジョークが
激鱗に触れたらしい・・・。

会場で手渡されたアンケート用紙

—– 本日の感想をお聞かせください —–

どこにもない、あなたでしか出せない、
甘くハスキーな産声。
今一度、この胸で抱きしめてみたい。
I LOVE YOU.
一度聞くとまた聞きたくなる。

母、きくえ

<ある日のライブコンサート>

また聞きたいと思っていた折、
久々の招待。

和歌 「皆さん、ようこそ
江崎和歌デース。
知ってますか?」に、
我先がちに身を乗り出し、
私 「はい。よ~く知ってま~すデス。ハイ。」
またいつものお母さんがはじまった。
司会者 「和歌さんって、いい名前ですね!
ところで、どうして
和歌と、つけられたのですか?」

小首をかしげると、ハテナ?
会場に視線を投げかけ、
私に助け船。

『”ワカ”ハテナ? ”わ・か”ハテナ?
ワカ?ワカ?エート、私、ワカンナ~イ”!』
会場は爆笑。

「オトボケですか?」
「ボケですか?」
「天然ですか?」
「天然ボケですか?」

しきりにヤジが飛び交う中、
エンディング・・・拍手。拍手。
静かに幕は下り、
舞台から、客席へと。

私はそっと耳打ち
「Aさんから、ご祝儀戴いているのよ・・・」
と、その時だ!
「ところで、ご祝儀ってなんだい?」
大声で会場いっぱいに
響き渡った一言。

消えかかったライトが
突然ライトアップ

誰も頼まないのにカーテンコール。
天は二物を与える。
お笑いの笑点のはじまりだった。

人生前半、ネイチャア
どこに在っても自然体
うけもねらいもなく
そこにいるだけで
周りを楽しくさせる和歌だった。

そんな和歌に、
① 母のヤジ
② 笑いの壁
③ 天然の壁
3つの壁があった。

講師の一言評価しかり。

「人前であることもなく
こだわりもなく
レコーディングはいつも
一発OK」

6才初めての学芸会を思い出す。

畑に立つ野良着を着た少女は
台詞を忘れたのだろう
大声で言った一言の台詞は
「アレ!? 何だっけ!」

居並ぶ観客は
カボチャかカラスの行列

生まれたまんま、そのまんま
緊張感の欠如した和歌だった。