<受験>

<受験>
――三者面談――

「三者面談したからって
合格するわけじゃなし
面倒くさいわネ!」とお母さん

教師、親、子
志望校を絞る
最後の面談

教室の行き帰り
行きはルンルン
帰りは険悪

教師の机の上には
合計内申点の資料
見ることができるのは
教師だけ

「私、いくつありますか?」
和歌の問いかけに
教師はノートを見せないように
資料をさっとめくって調べようと…

その瞬間
チラ!とのぞき見

教師「29ポイントです」
和歌「アラ!そうでしたか」とニタリ
すかさず
「29ポイントの都立はどこかありますか?」

教師は尋ねられるままに
可能の高校を
指で追って探しはじめ…
それを横目で確認した和歌
驚いたことに
教師の脇にあったノートを
堂々とめくった!

そして
「うん、なるほど」と腕組みすると
ドッシリと椅子におさまった

自分のことは
自分で調べ
自分で決める

学校の教育目標そのもの
――が、しかし
まるでカンニング

親からはすべて見て取れたこの光景
教師はまったくお気づきにならず
前代未聞の三者面談だった

受験期の教師は、
受けたい所を受けさせたい–が
どこかに入ってもらいたい
生徒のために
1度は矛盾したはざまに。。。

教師「もし一般受験で落ちたら?」
和歌「2次募集を受ければいい」
教「それで落ちたら?」
和「3次募集を受ければいい」

教師「私立がダメだったら?」
和歌「都立を受ければいい」
教「それで落ちたら?」
和「都立2次を受ければいい」

教「それにしても受験料がモッタイナイワネ!」
和「すべて私のお小遣いです!」

親からもらったお小遣いは
合格のための軍資金

教「そこが落ちたら?」
和「中卒でも受けられる音楽の専門学校を
受けます!」

教「それはどこに?」
和「渋谷にあるバンタンです
高校を卒業したら、受けて見たいと思います 」

教「高校生活の3年間がモッタイナイヨ!」
和「好きなことが早くやれて3年トクします」

教「そこが落ちたら?」
和「そこを何回も受けてみます」

三者面談ならぬ
先生と生徒の
二者面談だった

帰り道
「ちゃんと31ポイントあるさネ! 」
都立換算内申点 だった

――志望校の選択――

男女共学、水泳部が盛ん、制服がカワイイ
この3つが決め手
絶対ココにしたよ!
K学園

桜吹雪く新しい季節の向こう側
ホラ!
水泳部のたくましくカッコイイ先輩が
カワイイ制服をまとったあなたを見つめ
鏡の奥からやってくる

――和歌の勉強法――

この平和な時代に
人を蹴落としてまで
戦中さながら
受験戦争
塾戦争

和歌は
自宅学習
自主学習

自発的、合理的
独自のスタイルを持つ
一風変わった勉強法

どこでも寝られて
どこでも勉強

タダイマ!と帰れば
仮眠すること1~2時間
睡眠時間は3~4時間
ナポレオン並み

夜型学習
1人じゃ寂しい
ネコを閉じ込め
明け方2時3時まで

ネコもお受験
学習院初等部くらいに

犬も犬小屋の前に机を出し
レッスン ワン!

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冬場のネコはホットカーペット
一匹で足りなきゃ二匹
二匹で足りなきゃ三匹

目覚まし時計は
1つでダメなら2つ
2つでダメなら3つ

それでも起きないときは
相性の悪いネコを
二、三匹投げ込んだ

スカートのしわを手で伸ばし
朝食もそっちのけ

念を押すこと
日に数十回
行ってまいります K学園
ただ今帰りました K学園

「もしも…」と言いかけたら
「落ちるわけないでしょ!!」と
炊飯器をポーンと蹴り上げた

言い出したら聞かず
戻ることを知らない
機関車ワカエモン

どんどん怒らせるも
逆なでするも方法
怒るだけ怒れば
引くに引けず
あとは合格するしかない

トイレは個室
暗記するまで出てこない
風呂場も個室
桶に腰かけ
曇りガラスに
指でなぞった英単語

ステレオは子守唄
睡眠学習
夢の中でも勉強

人にどう思われようと
どう見られようと

目的達成のためには
なりふり構わず
手段も選ばず

塾代がモッタイナイ
通う時間がモッタイナイ

暗記済みのプリントは
あっちにポイ! こっちにポイ!

部屋中ゴミ箱
紙くずに埋もれ
ゴミ姫様は
合格の日を夢に見て
オホホホホ!
幸せいっぱい ゴミいっぱい

勉強中
脇を通りかかった父親が何気なく
「勉強してるか?」と

そのとたん
「これ見れば分かるでしょ?」
やにわにゴミ箱をさかさまに
出てきたのは
暗記済みの紙くずの山

「元気があって良い!」だった

――ああ、受験生――

隣の芝生は緑
人のうわさが何よりのご馳走

ストレスだらけの受験生
うわさもいじめも
ストレス発散
手段のひとつ

対象とされた人は
誰かの役には立っている

――が、しかし
同じ受験生
さぞかし辛く悲しかろう

人の悪口を聞くのは好きだけど
悪口を言うのはイヤ
よくよく耳を澄ませば
私の悪口

好きな男の子に
初めて肩を抱かれ
なぐさめられて
ラブラブ気分…

いじめてくれてありがとう、だった

1人じゃできない
みんなでやれば
おもしろい

いじめの集団
大部屋グループ

私の部屋は三畳間
心のスペースも三畳間

親よりも
何でも話せる
心の仲間が
1人いればよい

受験勉強中は
成績の良い子とカワイイ子は
シャットアウト エアカーテン
見て見ないフリ

模擬テスト、失敗もバネ
良かったり悪かったり
らせん階段を小走りに駆け上がる

ライバル登場
越されてなるものか

それをバネに
好きな子追いかけ
ハイジャンプ

3つ向こうの山さえ飛び越え
東大だって合格圏

受験期の不安解消法は
長電話
聞かれて困る電話は
風呂場、トイレと持ち歩く

受験期は
人生の句読点
人生の途中下車

気分転換に
漫画を読むのも勉強
テレビを見るのも勉強
音楽を聞くのも勉強
ピアノを弾くのも勉強

人は勉強するために
勉強をする

自然の中で
体を使って
遊ぶだけ遊んだ

受験勉強は
頭を使って遊ぶ
中学時代の最後の遊び

点取りゲーム=集中力と体力勝負
「ハイ! 待ってました、私の出番」だった

なぜ受験勉強をするか?
教師はアンケート

和歌の答えは
将来のためにではなく
今をイキイキと生きる
今の自分のために

「するっきゃない、やるっきゃない!」
だった

――受験生と家族――

A子の家族は
全員協力体制
見たいテレビも見ず
腫れ物に触るよう

冷暖房完備、冷蔵庫つき
まるでホテルか病院の個室

ドアには
合格祈願の御札が一枚

家庭教師とマンツーマン
そして塾
何1つとして不満がなく
不満のないのが不満で
イライラ ピリピリ

100点でないと
気が済まず
-1点のために
消しゴム1個使う潔癖症

家から一歩も出ず
外へ出れば対人恐怖症

夜も眠れず
不眠症

冷蔵庫と机を
行ったりきたり
拒食症と過食症が
変わりばんこ

色んな症状が出そろった

生まれた時
未熟児だったA子は
今、過塾児

月曜 ピアノ
火曜 塾
水曜 バレエ
木曜 塾
金曜 英会話
土曜 ――病院!

夜9時も回れば
お母さんは召使い
お盆の上に
紅茶とケーキを載せ
しずしずと

午前1時も回れば
夜食の牛丼

一方、和歌のお母さんは
子猫がミャーと鳴いただけで
ミルクを出すのに

呼べど叫べど
紅茶どころか
水1杯出てきやしない…

マジで切れて
「牛丼!」と叫んだら

お盆の上に吉野家の牛丼が!
レシートにメモ
――不合格の場合はお代をいただきます

A子にとっては
気づかわれ
尽くされるほどに
プレッシャー

その事に
家族の誰もが気付かない

和歌の家族は
受験生を気づかい
リラックスさせようと

親みずから
率先してリラックス

勉強している脇で
父はテレビを見ながら
ビール飲んで
目がドロン

母は音楽聴きながら
スコッチ飲んで
目がトロン

言うこと やること なすこと
すべてデタラメ

酔いが過ぎれば
夫婦喧嘩

挙げ句は
もし私立が落ちたら
盛大に不合格パーティーを!

人が受けようとしている
その脇でする話は
落ちた時の話だけ

受験期の我が家は
本当は優しい
シャイな
てんでバラバラ
ほったらかしの
核家族

受かろうが落ちようが関係ない

気楽なもんだよ
受験生!

―――受験期突入――

受験生にとって
厳しく、辛い季節の到来

入学式
桜吹雪を前にして
過酷なまでに
雪が降る

白い雪は合格
黒い雪は不合格

でもなぜか
我が家の屋根に降る雪は
黒い雪
降りしきり 降り積もる

ア! 和歌!
屋根から雪が落ちた!

縁起が悪い!
言うなと言ったでしょう!

滑ってもいけない
転んでもいけない
何を言っても怒られる

滑って転んで不合格
骨折したら
死んでお詫びするしかない

いけないのは私じゃない
いけないのは氷だよ!

とはいっても
受験期の和歌は
手がかからず
何かと親孝行者

受験が目前に迫った
この大切な時期に
親がする子不幸

「受験生って見てるだけで疲れたわ」
Do your best!
と、一言残し
さっさと入院
そして手術

「やあ、お母さん元気かい?」
「合格したよ」
その日を夢に見て…

――1次試験――

-第1次試験当日-
「お母さん、東大に合格したよ!」
「そんなバカな!」で
目が覚めた

前日まで降り続いた
黒い雪も止み
雲一つない晴天
きっとお母さんの
頑晴れ!だ

燃料にオニギリ二つ
積み込んで
犬やネコに見送られ
機関車ワカエモンは
「お母さん合格したよ!」を
届けたくて
受験戦争
戦地に向かってシュッポッポ

合格するために
必要な分だけ
点を取り
解からない所は
小さな親切
不合格も
人助け!

テスト開始のチャイムが鳴り
一斉静かに
耳を澄ませば
ハラハラドキドキ
心臓の鼓動が
教室中に木霊する

ここ1、2年間の膨大な時間が
数時間、たった数枚の
ペーパーテストで
運命左右の分岐点に
トライするチャンス!

宇宙の法則からすれば
まばたきの瞬間
点にもならない

受験科目は
英語と国語と
面接試験

隣は何をする人ぞ
チラチラカンニング
同じするなら
反対隣にした方がいい

テストプリント一目見て簡単そう
良く良く読んだら難しそう
やるだけやって
残りの時間は
何して過ごそう

-国語-
漢文は、カンで
埋めるだけ埋めた

古文は自信があった
私の名前は
江崎和歌!なんだ

現代文-出題は狭き門
作者も解からず
読んだこともなく
まさに「狭き門」

-英語-
単語は得意
丸暗記、丸かじりの英ダンゴ

英作文は苦手
日本語なのに
問題の意味が解からない

長文読解
単語一つ一つは読めるが
途中からは
単語の行列、英ダンゴ!

コンマコンマの連続で
どこで切っても、金太郎アメ
これだけは絶対
食べてはイケナイ!

You must not eat!!
不合格まんじゅう

-面接-
本校志望の動機は?
と聞かれ、水泳部が盛んだから・・・
将来の夢は?
と聞かれ、歌手と答えた
実技があったらいいなあ

1次試験終了
人生、山あり谷あり
一抹の不安をかかえ
自宅へと

家にもどり答え合わせ
合格点スレスレ!
後は採点ミスを
待つばかり

-不吉な夢-
合格発表前夜
不思議な夢を見た

病院にいるはずの母が
なんと寝間着のまま
頭には白い三角巾

おまけに手には懐中電燈
暗闇の中
掲示板を隅から隅まで
照らして廻り

アレ!どこにも番号がない
なんと、母は
ガビョウをはずし、紙をめくり

ハテナ?
もしや掲示板の裏にでも
裏にも廻って
ウラメシヤー
何ともうらみがましい表情で
ボー然と立ち尽くす
そんな不吉な夢を見た

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-1次合格発表-
ヤッター、3mも飛び上がる
体育系

つま先立って
必死で名前を探す
検索系親子

母子で抱きつく
メロドラマ系

名前があれば
泣き叫ぶ
激情系

なければないでくるりと背を向け
立ち去る、プライド系

掲示板の前に立ち
写真を撮る
デジカメ・プリクラ系親子

合格発表
どうして、親と一緒に
見るのだろう

合格発表は
当たるも当たらぬも
私にとっては
宝クジと一緒

受験は自分の仕事
合否の責任は、自分に有り

掲示板の前は
人生ドラマ
不合格
1次試験のドラマの
幕は下りた

母は誰よりも先に
合格発表を見に
以心伝心の
正夢だった
2次試験で
ヤッター!とは反対
ヨシ!ヤルゾ

A子の学校の名前が
新聞に載った
嬉しくなって私も
新聞に乗った

タイマーつき
調整ランプ
回転イス
そして
冷蔵庫つき

やっとデラックスな
机と個室から解放

でもまだ大学受験
家庭教師と
予備校が待っている

体の弱いA子が
マラソンランナー
またふたたび長期マラソンの
スタートに立った

-1次試験結果報告-
父に落ちたよ!と云えば
「北海道トンネルの落盤事故の
振動で落ちたんだろう…」と

1次合格発表当日
よりにもよって
トンネル落盤事故
テレビで報道

受かろうが落ちようが
関係ない
命が大切
命があればそれでいい

帰りの電車賃だけ残し
阪神大震災に
街頭募金
全部寄付
これでもうサッパリ

自分の事情+親の事情=惨状
にならなくて良かった

「母に落ちたよ!」と言えば
「アラ!良かったわねぇ
2次も落ちたら
好きな音楽をやれる
バンタンを受ければ
いくつもいくつも楽しみがあって
いいわねぇ~」

母の枕元の花ビンにバラの花
私の心もいっぺんにバラ色!

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なんてやさしくいいかげんな
お母さん!

-合格発表当日の夜-
不合格祝いの膳を
たっぷり食べ
寝る前に天井を見つめ
瞑想にふけり独り言

試験当日は
なんとかならーねと悠然
試験が終ってガク然
だから落ちて当然
不合格と知ってから人の手前平然
キャンプで穴に落ちた
試験では穴場をねらって
やっぱり落ちた
ハスにかまえた反省ザルは
ここに在っても自然体

受験は勝ち負け、運動会じゃない
人生に負けたのでもない

ただ落ちただけのこと
問題は解かったけど
答えが解からなかっただけのこと

合格発表があるなら
不合格発表だってある

人生は長距離マラソン
マラソンランナー
2次試験
自分で自分にもう一度
タスキを渡すだけ!

-2次試験-
1次試験がたたき台
2次試験はのびのびと
鼻歌混じりでスラスラと-

-2次合格発表-
掲示板の真中に
194番 -うまく194(いくよ)-
受験番号が良かった

喜びの裏に辛さあり
辛さの裏に喜びあり

合格と不合格
二つの体験ができ
人の心に共感
心の栄養になった

お父さんに「合格したよ!」
と言えば
「江崎和歌が他にも居なかったか?」

「まぐれ、桜の狂い咲き
しかも満開
散らないうちに
早くお母さんに報告しなさい!」
相変わらずビールを飲んで
目がドロン!

ああ!
我子の合格を
誇らしげに語る
教育ママがうらやましい

「お母さん合格したよ!」
と言えば
点滴でまどろんだ
トロンとした目を
うっすら開け

「またそんなウソを!」と
何てはりあいのないお母さん!