全身麻酔

全身麻酔

生暖かい風に吹かれ
白衣をまとった何処ぞの誰かに手をとられ
怪しい風情に染まった
何処とも知れぬ
夕暮れの町を彷徨い歩く

病着はあっという間に浴衣になり
団扇を持って ふわりと宙に浮かぶ
東京の夜景見物としゃれこむ

高層ビルの谷間を乱舞するホタル
鈴なりのイルミネーション
明るいネオンの逆光に
精いっぱい瞬いて
一晩中点滅しつつ 一生を終えた

路上では路地を渡る風に乗って燈籠流し
風鈴の音が糸をひくように路面を滑ってゆく
灯し火のひかれ幻灯会を観る
タイトルは──在りし日の──あわてて顔をあげる

川に落ちた手鞠を追って溺れた友達の顔がもやっと浮かぶ
しばらく遊んで居たいような
そのままそこに居たいような
ずっと甘えて居たいような子供の頃の懐かしい時間があった

菜の花畑で見知らぬ白衣の誰かが呼んでいる
なにやらなんともいい香り
どうやら時節は春らしい
陽炎が見える
おぼろ月夜のハミングが聞こえてくる

全身の細胞がわやわやとさざめきはじめる

雪解け水の音が返ってきた

現実に引き戻されることがうっとおしくなった